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砕け散った破片、朧氣なる記憶は述べる。
質素ながら華やかなる王都(ミヤコ)。
天国を表す色彩に満ちた花々。
数々の濃淡を潜ませた緑に満ちる木々――…

・・

堕とされし光の子を救うべく、数多の記憶を潜り操りて、辿り付きしは嘆きの箱庭。亡者共の棲まいにして奈落の底。亡者の纏う闇に抱かれし光の子等、蒼き剣に闇を剥がれ、かつて在りし場に還り賜う。其は滅びの女神、今尚彼の地に留まり、亡者の足掻きを刈り取りけむ。
さて、此処は何処であろうか。

・・

此の世は三千世界、其処には二つの国があった。
砂漠の王国ロブリーズと、極寒たる帝国メガロポリス。
この二国は不自由な環境ながら、その勢力は均衡しており、度々戦争を起こすほど仲が悪かった。
しかし、頻繁な戦争は両国の繁栄を確実に阻害しており、過酷な環境下で破壊と創造を繰り返す物質的・精神的な余裕は最早無くなっていた。
以上より両国は、国主とその兄弟姉妹の政略結婚による休戦協定を長らく続けていた。
本日は、相も変わらず慌ただしい帝国についてお話しよう…――

 

 

 

 

「ナーッシュ!! インペリアー!! メガロポリース!!」
『ナーッシュ!! インペリアー!! メガロポリース!!』
「ナーッシュ!! インペリアー!! メガロポリース!!」
『ナーッシュ!! インペリアー!! メガロポリース!!』

チュドーン!

《…嗚呼、我が国に、安寧秩序はあらんとや。》

キンッ
バリーン

ドカーン!

《上申仕ります。
 帝国歴百五十年一月十日火曜日。降雪五糎程度の為、例年通り帝国軍士官候補生選定試験を決行せり。

 受験者数は男子百四十八名、女子百九十四名也。

 本年は“魔の年”世代成人の為、例年以上の士官入城数が見込まれる。

 組織配属・部屋割にて混乱が予想される為、早急に理想振分表を配信されたし。》

――…ザザ――…

《戦争は、良くないな。》
灰色の瞳の少年は、小さなポニーテールを括り直しながら応えた。
ポニーテールを直し終わればピアス、次は首の黒いバンダナマスク。その次は膝当て、次は靴。その間にも足で軽く飛んだり弾んだりと、妙に忙しない。
「そうか?今にも王国は攻めてくるかもしれないぜ?」
《ゲームもサッカーも出来なくなるのは困る。》
「ならよ、なんでお前は一般部に入ったんだ?」
《帝国に貢献できる要素として、ソレが最善だったからだ。》
その間にも帝国最強の天才による質問は投げかけられ、少年は淡々と回答していく。
「へえ…」
《そろそろ行くが、もう良いか?》
「良いぜ、いってらー。」
《ヴァスカンダのカツキ、ゲームスタート。》

 

 

ブンッ


ドクシャ界の諸君。
本日は御国(みくに)の記録を御閲覧頂き、誠に感謝する。
御国は安寧秩序を求めて百五十年の歴史を刻んできたが、
遺憾ながら一向に達成されていない事は、既にお分かり頂けただろう。
貴君等が我々の愚行迷走を反面教師とする様に、
御国もまた貴君等の叡智を参考にして、国の進路改善を図ろうと考えている。
それでは、始めよう。

興亡分岐点・後編;あ.御色合わせ
〈Ruining earth mode latter;Set mine by your Coloring.〉
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「あぁだるい。テロリストとは言う程大した事がない様だが?」
「未遂に終わればそうだと思います。」
「…そう、だね。」
我が国、帝国メガロポリスには、戦争が有ろうと無かろうと、年中つきまとう問題があった。
内乱である。テロである。
建物が爆発したり(工場や商用施設が多い)、地区の象徴が無くなったり(例えば、偉大な業績を上げた府区長の銅像)、ヘンな生き物が跋扈したり(隣国にも似た様なものが居るらしい)、マンホールが下から吹っ飛んだり(現場検証で死亡フラグが立ち一番面倒)するのである。年間行事の如く。
幸い死傷者は少数で済んでいるし、ファスタラヴィアのコージ曰く“サイコーにハイ”だと“防衛線”により未発生に終わったりするので、犠牲者は御見舞と御冥福を祈られつつ“何か遭ったか我が振り直せ”と相談に乗られ、一般人も慣れた様に応対し、各地区に勝手に義勇軍や救援・清掃ボランティア団が出来ていたりする。
…これが、帝国民の数少ない良い所である。
「数少ないのかよ!」
「確かに。寒冷地住まいの割には、お氣楽だね。」
問題とは簡単に言うと、
(1)テロ組織が根本から片付けられていない事(2)どうあがいても死傷者が出る事
(3)現場掃除と建造物修繕費がバカにならない事(4)偉い人が関わると一般人ではどれも解決できなくなる事
である。
「戦闘前に開戦宣言ってマジでやんのか?“やんぞゴルァ!!”とか。」
「カツキ、ソレはものすごくテロリストです…」
「今日はドクロマスクだから尚更だねえ。」
「あぁ?」
そこで、帝国軍一般部の出番である。
ソレは一軍から四軍まである総勢●名で構成され、テロの鎮圧から人命救助、現場清掃補助から準国家交渉まで命じられる防衛組織である。テロが頻発する帝国で二次被害が最小限で済んでいるのも、偏に彼等の御陰であった。
「実用を兼ねたお洒落だ、悪いか。」
「いいや。」
そういう訳で、士官生達は入隊早々実地任務に当たっていた。帝国メガロポリス・スツェルニー区にて爆発テロが発生した為である。幸い“防衛線”によりテロリスト共は補足され、帝国軍一般部からは二軍の新人、アナスタシアのマナ、ヴァスカンダのカツキ、リノクのマサトが出撃した。
彼等は既に数人フルボッコ捕縛刑に処したが、今の所お咎めは無い。
《おはよう諸君、ソリトンである。》
「おはよーござーいます。」「おはようございます帝国参謀殿。」「おはようございます。」
《支給した簡易自動電装機構(オート・エレクトラ・マキナミン)について説明がある。起動してくれ。》
『了解。』
自動電装機構〈Auto Electrum Machinamentum;AEM〉とは、帝国民が纏う簡易武装あるいは部分戦闘服である。其の仕組みについては殆どの帝国民の頭から綺麗サッパリ抜けているが、量子のチカラで武装や防具を構成するので肩や足にブースターを作って飛んでみたり、ロッ●マンよろしく手からレーザーガンをぶっ放せたりするというのが通説である。
しかし、日々のドサクサの中で毎回イメージから武器を創るのは非常に困難、かつ戦闘中にイメージがブレて自爆する虞が有った。そこで、既にイメージを粗方固定しておいた物が存在していた。
それが今回登場する簡易AEMである。
『オート・マキナミン、ビオープン!』
帝国軍一般部のトップからの通信で、三人は早速簡易AEMを起動した。
アナスタシアのマナは、オーソドックスな大剣。
ヴァスカンダのカツキは、分厚いグローブとスパイクシューズ。
「水鉄砲?」
「スプ●シューター、だと…?!」
《もしかして改造した?》
「此方のゲームが好きだからね、そのイメージは乗せているよ。」
《あー、それで妙にデカいのか…》
リノクのマサトは元ネタで言う“シューター”、だいぶ大きい拳銃である。
帝国参謀は元の機材とは随分違う見た目に驚いたが、すぐさま解説に入った。
「おおぉ、ゲームの“ブキ”だ…」
《AEMのミソはイメージを乗っけられる事だが、簡易AEMの場合、基本スペックは変えられない。

 “アルファレーザー”の基本スペックは直径3cmレーザーが撃てるハンドガンで、連射回数は20発、

 リロードに5秒かかる。そこだけ注意してくれ。》
「了解だよ。」
「あの、スプ●トゥーン…わたしもやってます。」
「マジか!」「おや。」
「俺もやってる。後でフレ」
《警告:北東300mに目標確認。排除希望。》
ゲームに出てくるブキを見て盛り上がる同級生達であったが、そこを無機質な女声が釘を刺した。
それは防衛線〈The Guard Liner〉。
帝国全土に張り巡らされた、意志を持ったドップラーセンサーとも言うべき帝国機械科学の極地である。人工知能からレーダーまで帝国最新の機械類が使われており、日夜更新されているという。
「めっちゃびっくりした・・・」
《二軍Aチームは“防衛線”の言う通りに動け。》
『了解。』
三人は“防衛線”の指示通りに駆ける。駆ける。
辺りは曇天と路地裏でなんとなく薄暗いが、決して“防衛線”は見逃さない。
機械とは、そういうものだ。
《マナのAEMは“アルベルトソード”、近接戦闘に特化した大剣タイプだ。

 トリガーを引けば剣部分が射出されるが、回復に5秒》
「問題ありません。」
ビルの曲がり角を曲がるその瞬間、マナはバッサリ斬り込んだ。
その上からの振りかぶりと共に宙を舞い、放たれた銃弾が外れて舌打ちする敵にかかと落とし。踏んづけた敵が頽れる前に横斬り、他方からの銃弾を凌いでまた跳躍する。
「被弾(その)前に斬り込みます。」
《おぉう、勇ましいな!補助の方も問題無さそうだ》
「ふっ?!」
ようやく着地した所で、後ろから飛んできた物を微動作で避ける。
一直線に飛んだのは水色に光るボールだ。当てられた敵は感電し気絶、ボールはそのまま跳ね返って自軍方向(こちら)へ帰ってきた。
「我ながらナイッシュー。」
「ナイスです。」「正しくナイスだね。」
カツキは今し方放った跳ねっ返りのボールを右足で御し、足下に転がした。
《カツキのAEMは“アンドロメダ”。電磁ボールを生成する4つのリストバンドでゴールキーパー》
「ディフェンダーだ。」
《おっと、これは本人の方が詳しいかな?

 電磁ボールの生成は連続3回まで、回復に10秒かかるので気をつける様に。》
「分かっている。」
言われなくても高校時代からの付き合い、戦術は既に決まっていた。
「森羅万象に宿る妖しき光よ、我等を阻む者共を捌け…ソーレライン!」
マサトは後方の敵をシューターと、一直線に放たれた緑色の光線…
ソーレライン〈K.L.'s Attack Magic Level one;Sole Line〉で撃ち払った。
以上の様に、マナが前線を押し上げ、カツキが双方のフォローに周り、マサトは後詰めに務めながら策を練る。
この三人は同級生だった頃からこの手法で戦ってきたからか、特別打ち合わせなくても不思議と息が合った。それは今も続いており、後には兵共のフルボッコ跡が残るだけである。
《全標的、戦闘不能。異状、無し。二軍Aチーム、帰還可能。》
《マナ、カツキ、マサト。このまま帰還しても良いし、見回りに行っても構わない。
 ただ、明日が7時出勤な事だけ忘れないよーに!!仲間入りの朝礼だからな!

 本官からの通信は以上、おつかれー!!》
『オート・マキナミン、リリース。おつかれさまでした。』
三人の活躍によりレーダーの赤色が無くなると、“防衛線”による戦闘終了の合図が響いた。
「皆様、お疲れさまであります。」
「お疲れ様です。」「お疲れっす。」「ああ、お疲れさま。」
帝国参謀の話では、このまま帰ってしまっても良い様だ。
現時点で確認できる標的をぶっ飛ばし尽くした同級生トリオは捕縛部隊に後を委せ、颯爽と本拠地へ帰投した。
「マサト、マナ、ナイス。」
「そちらもナイスだよ。」
「カツキもナイスプレーです!」
カツキは電磁ボールをAEMに吸わせて仕舞い、本日の戦闘を頭の中で振り返った。
自分のプレーもチームプレーも、問題ない様に思う。
後で某同級生が勝手に拾う“防衛線”の動画を見れば、もっと分かるだろう。
「なんだかんだ言って俺達、上手く行ってるな。」
「そうだね。スプラト●ーン同盟でもある様だし。」
「おお忘れてた!フレンド登録!」
「…ついでにバトルもどうだろう?」
「いいぜ!」
「はい!」
「ではゲーム機持参で、何処で集まろう?」
「俺は寮住まいだから近いが、ソレで良いか?」
「…僕は構わないが」
「大丈夫です、宜しくお願いします。」
三人はゲームの話をしながら、これからの予定をまとめた。
「いやぁ今日も良い日だったねえ。」
「そう言えば明日から、ユリも此方に来るそうです。」
「うおマジか!」
「これは明日も良い日になりそうだ。…今の内にNew!フォーメーションを考えておかねば…」
「明日も、帝国が平和であります様に。」

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